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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(オ)835号 判決 1974年4月05日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人古谷判治の上告理由第一点ないし第六点について。

所論中違憲をいう点は、その実質は事実誤認、単なる法令違反の主張にすぎず、所論の点についての原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。なお、原審は、本件事案の難易、請求認容額等の諸般の事情を考慮して弁護士費用一七万円を本件事故と相当因果関係のある被上告人の損害と認めたものであることが明らかであつて、右一七万円は、既に過失相殺をして減額した請求認容額を考慮して定められたものであるから、さらに過失相殺による差引をすべきではない。論旨は、すべて採用することができない。

同第七点について。

一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨を明らかにして訴を提起した場合、訴提起による消滅時効中断の効力は、その一部についてのみ生じ、残部には及ばないが、右趣旨が明示されていないときは、請求額を訴訟物たる債権の全部として訴求したものと解すべく、この場合には、訴の提起により、右債権の同一性の範囲内において、その全部につき時効中断の効力を生ずるものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(昭和四四年(オ)第八八二号同四五年七月二四日第二小法廷判決・民集二四巻七号一一七七頁参照)。

本件訴状の記載によると、被上告人の本訴損害賠償請求が、本件事故によつて被つた損害のうちの一部についてのみ判決を求める趣旨であることを明示したものとはなしがたいから、本訴提起による時効中断の効力は、所論被上告人の附帯控訴による請求拡張部分をも含めて生じているものというべきである。

従つて、これと同旨の見解に立つて、上告人の時効の抗弁を排斥すべきものとした原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第八点について。

所論中違憲をいう点は、その実質は単なる法令違反の主張にすぎず、交通事故により負傷した被害者の被つた損害額を算定するにあたつて、得べかりし利益から所論家賃、食費等を差し引くべき理由はないから、原判決に所論の違法は認められない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 大塚喜一郎 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 吉田 豊)

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